今日という日は善きかな。

何があったかというと、単純にいいことがあったんです。

いや、いいことをされたのです。
普通に地下鉄駅構内を今時の若者を気取って歩いていた時の話です。

その時は気付きませんでしたが、私がポケットからガムやら何やらを取ろうとした瞬間、命より大切な私の財布が、おむすびコロコロの原理で私の下を離れたわけです。

そのおむすびならぬお財布なんですが、このご時世ですから都合よくもう私なんかよりはるかに今時の若者が財布を拾って、丁寧に
『ありがとな』
とお礼をひそひそと言われ、私が気付いた時にはもう遅く、テンションがた落ち。
生活落ち。
というオチになると思われたのてすが、砂漠にオアシスがあると願えば有るように。
都会にいい人と願えばいるもので、中年のサラリーマンが私の前に顔を出し、
『落としましたよ』
と一言。

お礼をいう暇もなく、颯爽と去り行く紳士は、もうかっこよくてたまりませんでした。

追いかけようとしましたが、なんとも紳士の足取りは異常に早く、全く追いつけませんでした。

多分これが世界の壁なんでしょう。